果てのみえない諍いに 乗じる覚悟はありますか

 旅人は少年の嘘を知らない。故に少年の全てを信じる。旅人はそういう人間だった。
(だいぶ疲れているな)
 少年の歩く速度は段々スローペースになっている。二人とも倒れてしまう前に、早く何か食べないと。
 少年が何か呟いた。旅人は耳を傾ける。
「本当に、行くのかい」
 黒い布が震えている。だが相手にするだけの余裕はなかった。
「自分は、戻るのが怖い。戻りたくない」
 旅人は進む。今大切なのは、生きるために足を動かすことだった。

* * *

「何てことだ」
 旅人は唖然としていた。そこは、廃墟だった。廃屋と死体の散らばった、とても見るに耐えない光景だ。
 少年の震えが益々酷くなる。少年は旅人のコートを引っ張って言った。
「早く戻ろう、旅人さん。こんなんじゃ食べ物どころじゃないだろう?」
「……そうだな」
 空腹のあまり足がふらついたが、耐えられないほどではない。どうにかして、次の集落を目指そう。
 旅人がそう決意し、二人が歩き始めたときだった。
「ようこそいらっしゃいました、旅人さん」
 あどけない少女の声が聞こえた。途端に、隣にいた少年の肩がびくりと跳ね上がる。
 旅人が振り返ると、少年と同じくらいの年齢であろう少女が立っていた。質素な服を着た、長いブロンドの髪の少女。
 少女は旅人を見、少年の方を見、そしてにこりと笑った。
「……やっぱり戻ってきたのね」
 旅人にはワケが分からない。少女は続ける。
「本当に久しぶりね。貴方はずっと私を避けていたもの」
 どうやら二人は知り合いのようだった。だが少年は決して振り向こうとしない。
 黒い布をしっかりと被り直す。
「帰ってくるつもりはなかった。この旅人さんが空腹で困っていたから、案内してあげただけだ」
「あら、そうなの?」
「ええ、まあ」
 タイミングよく腹の虫が鳴る。少女はクスッと笑った。
「よろしければ、私の家へどうぞ」
「……しかし」
「遠慮なさらず。折角いらしたんだもの、せめてお茶でも飲んでいってくださいな」
 少女はその唇にきれいな弧を描く。旅人よりも若いはずの彼女だが、子供らしさを全く感じさせない。
 光景が光景なだけにこの少女を怪しまずにはいられなかったが、空腹のあまりどうにもならないのは事実だった為、旅人は少女に従ったのだった。

- continue -

08/6/18 修正
08/10/14 修正