もう二度と会えないあの子は、私と同じ顔をしていた。いわゆる双子というやつだ。あの子は男で私は女だったが、小さい頃はよく間違われた。私たちはよく入れ替わって、度々周りを困らせた。
けれど八歳の時病気になってからは、そんなことも出来なくなった。出来る身体ではなくなったんだ。あの子も最初の頃は見舞いに来てくれていた。私を元気づけようと、朱と一緒になって笑わせてくれたりもした。
見舞いに来る回数が減ったのは、小学校高学年頃からだ。急に笑顔が減った。それでも無理に笑おうとするものだから、見ていられなかった。
あの子に何があったのか訊いても、母さんは答えてくれない。朱は学校が違うから、もちろん知らない。
あの子の身体に日に日に傷が増えていくのに気づいた時には、もう遅かった。
「竜、何かあったら私に言ってね。話を聞くぐらいは出来るから」
「ありがとう、涼姉」
私の言葉に振り返って穏やかに微笑んだあの子は、次の日に死んだ。自殺だった。
あの時私は弟を護れなかった。私は逃げていたのだ。何も知らないと言いながら、見て見ぬ振りをした。今更何の意味もないかもしれないけれど、せめて弟のために死のう。最後の二か月は弟のために使おう。
私は校門の前に立っていた。着ているのは男子用の制服。髪の毛もバッサリと切り、見た目は立派な男子学生である。
ここに転入することを決めたのは、私自身だった。母さんや父さんが私立へ通わせようとするところを、無理やり押し切った。何故なら、ここに双子の弟・魅月竜が通っていたから。ここが、竜の殺された場所だからだ。
「見ててね、竜」
涼姉がしっかり敵をとってやろう。竜の苦しみを、あいつ等にも味合わせてやろうじゃないか。
校舎の二階、三学年の階の一番端を睨む。そこが敵の陣地だ。
「入っていいぞー」
教師に言われ、ドアを開けて中に入った。途端に生徒達の好奇の目が一気に集まる。しかし、生徒たちの顔色は一瞬にして青ざめた。嘘だろ、何で生きてるんだよ、という声が飛び交う。
私は生徒達の反応を無言で眺める。この反応を見る限り、ここで当たりだ。二学年から三学年に上がる際、この学校はクラス替えをしない。
黒板に「井川竜」と書き、再び前を向く。
「帰ってきたのさ。本当の最期を最高の形で迎える為に」
教室が静まり返る。私はにっこりと笑ってみせた。
「皆さんよろしく。僕と、仲良くしてくださいね?」
- continue -
08/8/27
2012/01/31 修正