16th Game


「何、お前女なの?」
 半笑いで問いかけるが、井川はやっぱり笑みを崩すことなく、「そうだよ」と頷いた。一瞬オンナという字が分からなくなって、やっぱりあの字だよなと思い直す。生物学上のあれだよな。そうだよな。
「気になるなら、確かめてみる?」
「おい、馬鹿やめろって」
 そう言って制服のボタンに手をかける井川。その行動にどきりとして、俺は慌てて目を逸らす。しかしアカと呼ばれていた男が素早く井川を止めた。アカとやらは、呆れ顔で井川に言う。
「お前な、少しは恥じらいを持てって」
「わかってるよ。でも、面白いじゃん」
 やり取りを聞いて、からかわれていたのだと知った。動揺してしまった自分が情けなくて、誤魔化すように顔をしかめる。何やかんやで井川のペースに呑まれてしまっている自分がいた。
 別にこいつが男だろうが女だろうが、関係ねえ。関係ねえんだ。自分に言い聞かせ、邪念を振り払おうと話題を戻す。
「で? 協力って、具体的にどうするんだよ」
 俺が尋ねると、井川は顎に手をあてて暫く考えるような素振りをした。つい視線が胸の辺りにいきそうになり、いっそ見なければ良いんだと目を伏せる。女と意識して見ると、確かに身体の線は細いし、声だってやっぱり女の高さだと思う。むしろ男と思い込んでいたことが不思議だった。
「何でもやってくれるんだよね?」
「裸で町内一周とか、そういうのはやらないからな」
「そりゃ残念」
 井川がわざとらしく肩をすくめる。
「じゃ、三日に一度はうちに来てよ」
「ここに?」
「ふざけんなよ」
 ふざけんなよ、とは俺ではなくアカの言葉だ。アカは井川に詰め寄り、両肩を大きく揺さぶった。
「男を連れ込むなんて駄目だ。男は狼だって言っただろ」
 誰がこんな奴襲うか。口をついて出そうになる言葉をぐっと飲み込む。
「だって、定期的に会わないと真壁のこと探れないじゃん」
「せめて週一にしろ、週一」
「そんな余裕ないって。残りあと一ヶ月切ってるんだから」
 そこまで言って、井川は決まり悪そうに口を噤んだ。アカが見るからに顔色を変えた。絶句した様子のアカは、暫くして一言、
「もう、一ヶ月も無いのか」
 そう言ったきり押し黙った。
 俺は意味が分からず、交互に井川とアカとを見やる。けれども二人は気まずそうに視線を落とすばかりで、結局「一ヶ月」の意味については分からずじまいだった。  

- continue -

2012/10/06