エピローグ


桜は散った。
時間は、あっという間に過ぎていった。
今は、新緑の葉が生える初夏の頃。

一人の少女が、河原にいた。


少女は、河原の土手に寝ころんで、空を見上げていた。
桜の木の隙間の狭い空間から、ぼんやりと。
少女の顔は、まぶたが赤く腫れ、どこか疲れた様子だった。




***




『終わったな』

茶髪の少年は私に言った。

『まだ終わってないよ』

『そうじゃなくて‥‥。‥‥俺が言いたいのは、これからが大事ってことだよ』

『何それ。慰め?』

『そんなんじゃない。ただ、思ったことを言っただけ』

茶髪の少年は空を見上げた。

『‥‥終わった。そして、始まったんだ』

その目には、力があった。

『‥‥そうだね』




***




「結局、あの人の名前、分からなかったなぁ‥‥」

少女は一人呟いた。


そう、茶髪の少年は後に去っていったのだ。

『俺はもっと強くなる。二度と、あんな奴にバカにされないようにな』

それだけ言い残して、行ってしまった。
なんだか一人取り残された気分だ。



「ゆうき」



ゆっくりと片手で桜の木に触れ、少女は呟いた。



「     」



呟いた言葉は、風や子供達の賑やかな声に掻き消された。
それでも少女は満足だった。

届いた気がした。あの少年に。


最後の一滴が、頬を流れた。




***




少女は去っていった。
先ほどの言葉を、しっかりと胸に抱いて。



――ばかやろう。
生きてるぞ、私は。

 

- end -

読んでくださり、ありがとうございました!

でこゆず