救いのない話

 外に出て運動するということをここ何年もしていない私は、いつの間にか身体が鉛のように重くなり、ぴくりとも動かなくなってしまった。不思議なことに食欲は全く湧かず、そのため便意もほとんど無かった。たまにトイレに行きたくなるが、自分ではどうしようもないので家族の誰かにトイレまで運んでもらう。
 もちろん私はがりがりに痩せた。けれども死ぬことは無かった。それは何故なのかと訊かれても、滅多に起こらない摩訶不思議な希少現象だとしか言いようがない。
 そうして私はいつの間にか百年、千年と生きていた。恐らくそれぐらいの年は過ぎたはずだ。家族は死に、私の立っている周りは全て土に還り草が茂った。森の中にひっそりと私は立っていた。
 腕の骨に薄皮がくっついたような状態で、あばらも浮き出ている。身体の感覚なんてほとんど無い。息だって虫の息だ。それでも死なないのは、本当に何故なのだろう。ぴくりとも動けないまま時が流れるままに過ごすというのは、なかなか拷問に近いものがあった。私に元気があれば発狂していただろう。
 救いも何もありはしない。森の木々や動物たちが通り過ぎるのを眺めるくらいしか、私にはすることが無かった。森の外で今何が起きているのかなんてさっぱり分からない。
 それでも助けが来るのを信じて待っていた。誰かがこの醜い姿を発見し、殺してくれるだろうと信じていた。最悪猛獣に食われてもいい。とにかく命を捨てたかった。自分では死ねないのだから、他の誰かに頼るほかに方法はない。
 神様がこの世に存在するのだとしたら、どういった了見で私をこうしたのだろう。世界の終わりを見届けろとでも言うのか。
 私は毎日小動物や鳥、木々の緑が風に揺れるのを眺めながら、変化を待ち続けた。そうするしかなかった。
 そしてとうとうその時は来た。
 ある日、世界はあまりにも突然に終わりを迎えたのだった。
 いつまでも朝が来ず、動物たちは原因不明の死滅、緑の茂った森は消え、そこら中全てのものが更地に戻った。地球から生物という生物が全て消滅してしまったのだ。
 私はその時も、いつもと同じように立っていた。風だけが強く吹いていた。真っ暗闇の中だ。太陽さえも見えない深い闇の中、私は眼球をカラカラに乾かせて、それでも目を見開いて立っていた。
 酸素が急激に薄くなり始めているのに気づいたのは、暗闇が訪れてすぐのことだった。このまま上手くいけば、私はようやく解放される。そう確信し、心が浮き立った。
 私は立ったまま、いつの間にか呼吸を失くした。
 それで終わり。世界の終わりは即ち私の死だった。  

- end -

2010/02/17