直撃

 ある穏やかな午後、うたた寝をしていた私は突然動けなくなった。身体全身、どこもかしこもぴくりとも動かない。声さえも発することが出来なかった。
 一瞬パニックになった。全身麻酔のような感覚だ。
 けれども、どうすることもできない。すぐにそう悟った私は、ただ白い天井を見つめるしかなかった。時間はゆっくりと過ぎていく。お腹を出して寝ていたせいで、少し冷える。どうせならコタツで寝るんだった畜生。
 きっと学校サボったから神様が罰を下したんだ。でもね神様、何となく、なんて曖昧な理由じゃないんだ。もっと単純で明確。
 私はあの子に殺されかけた。数人から暴行を受け、全身に傷やあざをつくった。だから学校なんて行きたくない。あんなところ、行って何になるの。私には辛い試練の場所でしかないというのに。
 ぴくりとも身体が動かず、天井を見つめることしかできないのはとてもつらい。確実に動いているのは呼吸器系のみだ。私にこれからどうしろと言うのだ。妹や両親が帰ってきたら、この状況を見て笑うに違いない。
 とにかく呼吸はできているようなので、死ぬ心配はないだろう。あるとしても、突然の大地震でこの食器棚が私に直撃した場合のみだ。
 窓の外ではワゴン車のパン屋さんがよくわからない歌を響かせながらこの周辺を行ったり来たりしているのが分かる。なんだヘルシーパンって。
 その時携帯が震えた。電話だ。きっと先生だ。どうせ身体が動いていても出ない。身体が動かないというキチンとした理由があるので、今日は堂々と無視できる。どうせあの眼鏡カマキリのことだ、わーわーとやかましく大人目線で語るのは分かっている。
 そもそも、どうして身体が動かなくなるなんてオカルトがこうも簡単に起こるのか。金縛りというのは身体が起きていて脳が眠っている状態のときによく起きる云々という話を聞いたことがあるが、だとすれば私は眠っているのか。これは私の作り出した夢なのだろうか。
 ああそうか、私は死んだのだ。たった今魂が身体を離れようとしている真っ最中なのだ。そうだとすれば色々と好都合だ。そういう人生もまあ悪くはない。
 分かった途端、安堵で一気に力が抜けた。急に強烈な眠気が襲う。ものすごく瞼が重い。
 このまま眠って、また目が覚めたら、その時私はきっと天国にいるのだ。一足先に旅立ったおばあちゃんにもようやく会える。なんて幸せな結末だろう。
 そうして私は眠りについた。とても良い夢を見れる気がした。
 片隅にあった血生臭い物は奥の奥へ押しやって、誰かの断末魔も子守唄でかき消して、白いカプセルは見ない振り。
――ゴメンネ、オカアサン。
 私の眠りを妨げようとする誰かさんが騒ぐ。
 うるさい、うるさい。話なら後にして頂戴。
――モウ、イキレナイ。
 うるさい、うるさい、うるさい。
 私は静かに眠りたいのだ。お願いだから黙ってくれ。  

- end -

2010/01/29