「ゆうきー!!」
ああ、今日も来たか。
そう思いながら、俺はそれでも歩みを止めなかった。
***
がちゃがちゃと赤いランドセルを揺らしながら、あいつがやって来る。俺は知らんぷりをし続ける。
ドン、と背中に衝撃が来た。思わず振り返って叫ぶ。
「痛ぇな!ソレやめろっつってんだろ、雪菜!」
「へへっ」
あいつはただ無邪気に笑う。分かってんのか?
「……近づくなって言っただろ」
俺は雪菜に背を向けて言った。
視界にチラリと桜の桃色が覗く。そう、ここは母さんの死んだ場所だ。
ここを通る度に、昔のことが鮮やかに蘇る。血が、母さんの顔が、桜の花びらが、蘇ってくる。
胸が、痛い。
ふわりと、何かが俺の手を包み込んだ。
雪菜の手。
雪菜は両手で俺の手をしっかりと包み込み、やんわりと笑った。
「学校、行こ?」
その笑みが、溶かしていく。その笑みに、痛みが和らぐ。
……気がする。
「………ああ」
アイツが笑うと、泣きたくなるような重たさが、嘘みたいに軽くなるんだ。
「今日の給食何かな〜?」
どうしてか分からないけど、あったかい。
「知るか」
あいつの、笑顔。
この気持ちの正体に気づく日は、来るのだろうか。
- end -